第一回角川春樹小説賞特別賞受賞作。
駿遠を領有し、海道一の弓取りと称された今川義元が、天下取りの第一歩として尾張侵攻を開始せんとする。これに織田方が謀略で対抗する話で、クライマックスはもちろん桶狭間となるとして、そこに至るまでの暗闘、紆余曲折が魅力的に描かれる、とってもリーダブルな時代小説だ。
選考委員のコメントが一部載っているので紹介すると、
森村誠一「戦闘シーンは迫力に満ち、構成も巧妙である」
福田和也「今川家の家中という歴史設定を馴染ませ、さらに人物に感情移入をさせる手腕は大したものだ」
戦闘シーンは本当にワクワクドキドキする。
それと構成面もよく練られていると思う。
ただ、ときにキャラの動きがプロットに奉仕しすぎて人間心理としてどうかと思う部分があったり、ちょっアンフェアではないかと感じる場面がないでもない。
記述面では、パラグラフの中で視点が動くのがやや気になった。基本的に今川側視点と刺客側視点(いずれもシーンによって視点キャラは変わる)を切り替えながら進んでいく話なのだが、これがときにパラグラフの中でおこなわれるのがちょっと落ち着かない。映像的、なのかもしれないが。
奥泉も『モーダルな事象』で視点の行ったり来たりは試みてたけど、あれはセンテンスの中で回復させてるからなあ(たぶん)。
それでも、気になる点を差し引いても、かなり良質のエンターテイメントと思う。
主人公たちのその後に思いを馳せたくなるような、そんな読後感を残してくれる話でもあるし、歴史小説寄り時代小説のファンにはぜひお勧めしたい作品だ。
評者:b.k.ノムラ
評価:☆☆☆☆
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